微妙な関係






チュンチュン


青峰は静かに目を開いた。

青峰は現在、黄瀬涼太に恋をしている。

学校が違えども、中学では仲間だった。

今でも多少なりとも交流があったりする。

中学の終わりごろに青峰は自らの気持ちに気づいたが、

何も行動に移せないまま、卒業を迎えた。

数ヶ月経っても、青峰の心は黄瀬を捉えたままだった。

そんな気持ちは日々強くなり、

寝る前は黄瀬を妄想し、夢を見る。

夢の中の黄瀬は愛おしく、綺麗だった。

そう思っていると無性に黄瀬に会いたくなった。

土曜日だが、海常は部活があるだろう。

青峰は片思いの愛しい相手に会えることに笑みを浮かべた。










海常高校バスケ部。

青峰の予想どおり、部活中だった。

そんな青峰の想いを知らず、黄瀬は練習に励んでいた。

「よし、休憩」

笠松の声で全員が休憩に入る。

「黄瀬」

笠松が黄瀬の飲み物を渡す。

「ありがとうッス」

笠松も自分の飲み物を飲みながら、黄瀬をチラリと見る。

先輩として笠松は黄瀬の面倒を見ていた。

面倒を見ているうちに、黄瀬という男に惚れ始めていることを知った。

エースというその才能とその人間に。

今や、バスケだけでなく黄瀬と一緒にいたいという想いが強くなった。

笠松は部活の帰りにご飯を食べたり、

休みの日には一緒に遊びに行ったりと少しづつ二人きりの時間を増やしていった。

「黄瀬、今日もご飯食べて帰るか?」

「いいッスね。俺美味しい食べ放題のお店知ってるんスよ」

黄瀬は笑顔を見せながら、そう返事を返した。

部活も終わり、片付けの最中に青峰が現れた。

「青峰っち」

黄瀬は青峰の姿を見ると手を振った。

「どうしたんスか?」

「いや、お前に会いたくなった。この後、空いてるか?」

「笠松センパイとご飯の約束してるんスよ・・・」

黄瀬は遠くで片付けをしている笠松の方に視線を送った。

青峰は笠松の名がでたことで、表情が一瞬険しくなった。

「センパイ」

黄瀬は笠松を呼び寄せた。

黄瀬の隣によく見るようになった青峰の存在を視線に捕らえながら、

笠松は片付けを中断してやってきた。

「何だ、片付け終わらないだろ?」

青峰の方に視線を向けながらも、いつも通りの態度で接する笠松だった。

「センパイ、青峰っちも一緒にご飯いいッスか?」

「「はぁ!?」」

その黄瀬の突拍子もない言葉に笠松と青峰の声が重なった。

多分、黄瀬をめぐる恋のライバルであろう男二人が

よりにもよって、愛しい人と間を挟んでご飯を食べる羽目になるとは。

笠松にしても青峰にしても、二人きりでいたかったのだが、

黄瀬の愛しい笑顔に笠松と青峰は断ることはできなかった。





黄瀬の一言で思いもよらない展開に笠松と青峰は何ともいえない気持ちのまま

三人で黄瀬のオススメの食べ放題に来ていた。

四人がけのテーブルに何故か、笠松と青峰が隣同士でその向かいに黄瀬が座る。

モヤモヤとした気持ちのまま、笠松と青峰は空腹には勝てず、

食べ放題を楽しむ。

向かいの黄瀬も料理を口に運んでいた。

黄瀬以外、ほぼ無口なので黄瀬が中心になって会話をする。

会話といっても、バスケ中心になってしまうのだが、

なんだかんだで会話に花が咲く。

「それにしても、笠松センパイと青峰っちが並んでいるのは新鮮っスね」

突然、黄瀬はそう言った。

その言葉に青峰と笠松は声をそろえながら、

「「誰のせいだ」」

そうツッコミを入れた。



店を出た三人は黄瀬を真ん中にして歩いていた。

辺りは薄暗くなっていた。

「黄瀬」

青峰が黄瀬の名を呼ぶ。

それに笠松は反応した。

「今から俺んち来ねーか?」

黄瀬はいいんスか。と返事を返し、それに青峰は構わねーよ。と答えた。

「じゃぁ、センパイも一緒にどうスか?」

その黄瀬の一言でまたしても笠松と青峰は声を揃えた。

何故にライバルの家に遊びに行くのか。

笠松は軽いめまいに襲われたが、二人きりにさせたくなかった。

結局、黄瀬の一言で振り回されるのは惚れているからなのだろう。

きっと、青峰も同じだろう。

そう思うと、すこし同情してしまう。

またしても、笠松と青峰は黄瀬と二人きりになれず、青峰の家に遊びにいくことになった。

青峰の少し後ろを歩く黄瀬に笠松は黄瀬に声をかけた。

「なぁ、黄瀬」

「お前、青峰のことどう思ってんだ?」

いくら友達でも放課後にしょっちゅう遊びにくるのは異常だ。

黄瀬も何となく気づいているだろう。

笠松でさえ、青峰の想いに気づいているのだから。

「好きッスよ」

黄瀬はさらりと答えた。

「笠松センパイもすごく好きっス」

と、笑顔を浮かべてそう言った。

「おい、それって・・・」

どういう意味だ?そう聞こうとした矢先、前を歩く青峰に黄瀬は寄り添い、

後ろから青峰に抱きついていた。

「青峰っち!!」

じゃれる姿は犬のようだ。

笠松はそう思いながら、笑みをこぼした。

「黄瀬、青峰に抱きつくなっ!!」

「割り込んでくるんじゃねーよ!!」

その三人の後ろ姿は何とも微笑ましい。



「二人とも好きッスよ〜」





奇妙な関係は多分、続くであろう。









おわり